遺言・遺言書作成について

Q
私が死んだ後、今住んでいる家や、預貯金等をめぐって、子どもたちがけんかをしないかとても心配です。遺言書を書こうと思っています。残された家族がこれからも仲良く暮らしてくれることが一番の願いなのですが、注意すべき点などを教えてください。(北九州市・68歳・女性)

A.
l、はじめに
残された家族が、亡くなられた方の財産を巡って、骨肉の争いを繰り広げるという場面には、残念なことによく遭遇します。家族であるが故に、相手方のささいな言動が気に入らず、大きな問題に発展してしまうようです。
「兄は遠くで自分勝手に暮らしていて、父さんが入院したときも顔一つ見せなかった」。「私は大学にも行かず家業の手伝いをしてきたのに、弟は大学や海外留学までさせてもらって不公平だ」「俺は長男だし、生前から親父に“全部お前に頼む”といわれていた。姉も了承していたはずだ」等々、経験上、あげればきりがありません。

2、遺言そのような場合に有効な方法が遺言です
遺言によって、特定の財産を特定の人物に遺贈することが可能になります。残された相続人が遺産分割で争わなくてすむわけです。

3、遺言の注意点
(1) 遺言には大きく分けて、『自筆証書遺言(全てを自署したもの)』、『公正証書遺言(公証人の前で遺言内容を確認して作成)』があります。
死後の紛争を防止するという観点からは、より正確を期しての『公正証書遺言』を作成することをおすすめします。法的観点を加味し、確実な遺言書を作成することが出来るからです。
私の経験上も、せっかく『自筆証書遺言』が存在するのに、遺贈すべき相手方の生年月日や住所がなく特定できなかった例や、遺贈すべき不動産の表示として単に「自宅」と書かれていたために相続登記を法務局に受け付けてもらえなかった(遺言者所有の不動産は「自宅」のみしかなかったにも関わらずー・)という例があります。遺言者の意思が実現できないとすれば、もったいないことです。

(2) 『公正証書遺言』とは、公証人の前で遺言内容を確認して作成する遺言です。私たち弁護士が作成する場合、想定できる紛争を事前に予防するために、法定相続分を念頭に、遺贈する金額について具体的にアドバイスさせていただくことが可能です。
例えば、相続人のうちの一人に、あるいは、相続人ではない第三者に財産全てを遺贈するという内容の遺言であれば、自己の法定相続分を侵害された一部の相続人が、法定相続分の二分の一の権利を主張できるため(これを遺留分といいます)、せっかく遺言書を作成しても、死後の紛争を予防するどころか、新たな紛争の火種を作ってしまうことにもなりかねません。そのため、誰が遺留分権利者か、その金額をどのように算定しておくべきか等、判例等を含めた弁護士の法的知識が必要となるのです。

(3) 『公正証書遺言』は、各地の公証役場に赴いて作成するのが通常です。しかし、遺言書を作成したいのに、体調が悪く病院で入院している方などもおられるかもしれません。その場合は、公証人に病院に来てもらい、病院で移動することなく遺言書を作成することも可能です。

(4) なお、『公正証書遺言』の効力を否定するためには、「遺言書作成当時に遺言者の意思能力(自己の行為の結果を判断できる精神状態)がなかった」ことを訴訟等で主張、立証することが必要です。
「親父は重度の認知症だったので、このような遺言が理解できるわけがない。妹に言われるままサインしたに違いない」といったような相談をお受けすることが非常に多いように思います。そのような場合は、遺言者の病院のカルテ等を取り寄せ、解析するなどして、遺言書作成当時、意思無能力であったという事実を客観的に立証することとなります。
ですから、遺言書を作成する側の立場からは、事案によっては、面談場面等をビデオ撮影するなどして、遺言書が遺言者の真の意思に基づくものであることを証明するための資料作りをしておくなどの方法も併せ考えるとよいでしょう。
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奥田・二子石法律事務所 弁護士 奥田竜子